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東京地方裁判所 平成8年(特わ)3891号 判決 1997年4月21日

本店所在地

東京都豊島区駒込一丁目三七番一三号

株式会社劇団東俳

(右代表者代表取締役 久野珠美)

本籍

東京都新宿区水道町五番地

住居

東京都豊島区駒込一丁目三七番一号

会社役員

久野四郎

昭和二年七月二一日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官藤原光秀、弁護人藤本勝也各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社劇団東俳を罰金三二〇〇万円に、被告人久野四郎を懲役一年二月に処する。

被告人久野四郎に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社劇団東俳(以下「被告会社」という)は、東京都豊島区駒込一丁目三七番一三号に本店を置き、映画、演劇の企画制作等を目的とする資本金一〇〇〇万円(平成七年六月二五日以前は五〇〇万円)の株式会社であり、被告人久野四郎(以下「被告人」という)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成四年五月一日から平成五年四月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億九六七五万〇三四六円(別紙1の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成五年六月三〇日、東京都豊島区西池袋三丁目三三番二二号所在の所轄豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が九四一二万一〇二八円で、これに対する法人税額が一九〇九万九〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成九年押第四七〇号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額五七五八万四九〇〇円と右申告税額との差額三八四八万五九〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成五年五月一日から平成六年四月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億四七二九万一六三二円(別紙2の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成六年六月二一日、前記豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億〇三九一万九八〇八円で、これに対する法人税額が二一二七万五五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額七五〇四万円と右申告税額との差額五三七六万四五〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ

第三  平成六年五月一日から平成七年四月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三億一六三二万三五〇五円(別紙3の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成七年六月三〇日、前記豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億七八五七万八四六三円で、これに対する法人税額が四五〇九万七七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額九六七五万二〇〇〇円と右申告税額との差額五一六五万四三〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人及び被告会社代表者の当公判廷における各供述

一  被告人の検察官に対する供述調書二通

一  久野誠(二通)、久野珠美(被告会社代表者)、坂下政敬及び松澤みゆきの検察官に対する各供述調書

一  高橋徹、中野雅文及び林誠の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成売上高調査書、受取出演料調査書、公演収入調査書、通信費調査書、手数料調査書、雑収入調査書、割引債券償還益調査書、事業税認定損調査書及び領置てん末書

一  検察事務官作成の売上高、公演収入、通信費、手数料、事業税認定損(二通)及び税務署所在地に関する各捜査報告書

一  登記官作成の履歴事項全部証明書及び閉鎖登記簿謄本三通

判示第一の事実について

一  検察事務官作成の雑収入に関する捜査報告書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成九年押第四七〇号の1)

判示第二の事実について

一  押収してある法人税確定申告書一袋(同押号の2)

判示第三の事実について

一  安田三郎の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  大蔵事務官作成の修繕費調査書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(同押号の3)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、刑法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年二月に処し、情状により刑法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとし、さらに、被告人の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、法人税法一六四条一項により同法一五九条一項の罰金刑に処せらるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の合併罪であるから、刑法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で被告会社を罰金三二〇〇万円に処することとする。

なお、右の刑法四五条等の適用は、平成七年法律第九一号附則二条二項、三項によるものである。

(量刑の理由)

本件は、主として子役タレントの募集及び自主公演等を行っていた被告会社劇団東俳の代表取締役としてその業務全般を統括していた被告人が、平成四年五月から平成七年四月までの三事業年度にわたり、売上の一部を除外するなどした上で虚偽過少の法人税確定申告をすることにより、被告会社の所得を合計三億八三七四万円余少なく見せかけ、合計一億四三九〇万円余の法人税をほ脱したという事案である。

脱税額は相当の高額に達しているし、ほ脱率も通算約六二・七パーセントであって、決して低いとはいえない。被告人は天候不順等による新人オーディションの失敗等による経営不振に備えることを主たる動機として本件犯行に及んだ旨供述しているが、格別酌量に値する動機とはいえない。いずれも巧妙とまではいえないが、数種類の所得秘匿工作をしており、犯行態様にも悪質なものがある。さらに、この種脱税事犯については、一般予防の必要性も大きいことをも併せ考えると、被告人及び被告会社の刑事責任には軽視を許されないものがあるといわなければならない。

しかし、他方、被告人及び被告会社関係者は、査察を受けて以来、調査及び捜査に協力し、被告人は本件犯行の重大性を自覚し、真摯な反省の態度を示していること、被告人はほ脱所得の大半を割引債券の購入に充ててこれを備蓄しており、個人的用途に費消してはいないこと、被告会社は、国税当局の指導に従い、本件三事業年度分の法人税・地方税・消費税を附帯税を含め完納していること、被告人には前科前歴がないこと、被告人は長年にわたり俳優の養成等の仕事に努めるほか、ボランティア活動等にも携わり、多くの社会的貢献をしてきたものであること、被告人及び被告会社は、本件が広く報道されたことなどにより、すでにかなりの社会性制裁を受けていることなど、被告人及び被告会社のために有利に斟酌すべき事情も認められる。

当裁判所は、以上のほか一切の情状を考慮して、被告人及び被告会社につき主文の刑を量定し、被告人に対してはその刑の執行を猶予することとした次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告会社・罰金四五〇〇万円、被告人・懲役一年二月)

(裁判官 安廣文夫)

別紙1

修正損益計算書

<省略>

別紙2

修正損益計算書

<省略>

別紙3

修正損益計算書

<省略>

別紙4

ほ脱税額計算書

株式会社劇団東俳

<省略>

株式会社東俳

<省略>

株式会社東俳

<省略>

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